ドクターにインタビュー

vol.24

子宮内膜症と不妊治療

桜井 明弘 先生(産婦人科クリニックさくら院長)

桜井 明弘

[2] 子宮内膜症と不妊 〜どのように妊娠の障害になるのか

細川)
それでは、子宮内膜症と不妊との関係について教えてください。
Dr.)
はい。子宮内膜症は不妊症の原因になることがあります。子宮内膜症があっても妊娠される方もいらっしゃるということで、内膜症があるからといって必ずしも不妊になるわけではありません。つまり、絶対不妊の因子ではなく、「相対的不妊因子」だということです。
細川)
子宮内膜症の程度によるということでしょうか?
Dr.)
そうですね。内膜症の状態も腹膜上に内膜症病変が見られるだけでの軽度のものから、子宮後面に直腸が強固に癒着するダグラス窩閉鎖のような重症のものまでさまざまです。
細川)
子宮内膜症がどのように妊娠の障害になるのでしょうか?
Dr.)
これには大体3つの理由があります。まず第一に内膜症が引き起こす「癒着」による卵管機能の低下によるものです。
細川)
一つ目が癒着による卵管機能低下。
Dr.)
特に卵巣や卵管の癒着です。卵巣・卵管の癒着により、排卵された卵子が、卵管采に取り込まれない、いわゆる「Pick Up障害」となります。
細川)
癒着の場所によって妊娠への影響が異なるのでしょうか?
Dr.)
はい。たとえば、上に挙げたダグラス窩癒着のような重症であっても、卵巣・卵管の癒着が無い場合は妊娠率があまり低下しないと言われています。
細川)
なるほど。
Dr.)
次に「卵巣チョコレートのう胞」による卵質の低下です。
細川)
チョコレートのう胞。
Dr.)
チョコレートのう胞というのは卵巣にできた子宮内膜症のことなのですが、毎月の出血した血液が吸収されず徐々に溜まり、それが古くなるとあたかもチョコレートをとかしたような色になることからこのように呼ばれています。
細川)
そのチョコレートのう胞が卵子の質を低下させるのですね。
Dr.)
これは体外受精で採卵された卵子を観察することで明らかになってきました。
細川)
なるほど。
Dr.)
原始卵胞は卵巣の表面近くの皮質にびっしりとつまっているのですが、チョコレートのう胞、すなわち、卵巣内に溜まった血液が月経の度に出血を繰り返し、炎症や周囲の癒着を起こしている状態なのです。言ってみれば地下で、マグマがずっとグラグラと煮えたぎっているようなものなのです。卵巣の表面にまで影響を及ぼすことは当然ですよね。
細川)
そうですね。
Dr.)
最後が内膜症病変そのものの存在です。
細川)
病変そのものの存在というのは?
Dr.)
内膜症患者さんの手術のときに、お腹に腹水が溜まっていることが良く見られますが、この腹水を分析してみると、「サイトカイン」と言う物質が内膜症患者さんでは高い濃度で検出されます。
細川)
サイトカイン?
Dr.)
サイトカインとは炎症が起こったときに産生されるたんぱく質で、正常の細胞にも障害をもたらします。
細川)
炎症によってつくられ、細胞にダメージを与えると。
Dr.)
そうです。排卵された卵子は卵胞から飛び出し、卵管采に取り込まれるまでの間、僅かな時間ですが、腹腔内に存在します。ここで腹水中のサイトカインに暴露されることが予想されます。
細川)
なるほど。
Dr.)
最初に軽度の内膜症として腹膜病変のみが見られると言いましたが、この病変からもサイトカインが産生されるとすれば、軽症の内膜症でも不妊の要因になる可能性があります。
細川)
よくわかりました。

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