ドクターにインタビュー

vol.18

不妊治療の終結について考える

杉本公平 先生(東京慈恵会医科大学産婦人科講師)

杉本公平

【1】 不妊治療はなぜ苦しいのか

細川)
不妊学級(※)に参加させていただいたのですが、治療内容の説明だけでなく、たとえば、「これから地獄のような毎日がはじまるのです。」というように、不妊であることや不妊治療を受けることで生じる悩み、味わう苦しみについても、詳細に説明されていらっしゃったのには驚きました。
Dr.)
そうですね。世間では不妊症に関する情報発信が増えましたが、まだまだ、正しく理解されているとは言い難い状況です。ですから、患者さんにとって大切な情報、そして、厳しい情報ほど、ぼかさないではっきりと伝えることが大事であると考えています。そのことが、結果として、患者さんにとってストレス軽減になり、医師にとっては患者さんとのよい関係を構築しやすくなると考えています。
細川)
なるほど。不妊治療を受けること、不妊であることがなぜ苦しいのかについても、予め患者さんにお話しになっておくのも、適切な情報提供の一環であるというわけですね。
Dr.)
そうです。皆さん、ご承知の通り、不妊治療の苦しさは、治療そのものストレスだけでなく、対人関係や内面的問題にも及びます。対人関係の悩みでは、たとえば、ご主人との不妊治療に対する温度差やスレ違いというものがあります。
細川)
そうですね。治療について、あれこれ相談にのって欲しいと思っているのに、「好きにすればいい」という感じで、協力的でないという話しはよく聞きます。
Dr.)
それは、女性と男性とのプライオリティの違いからくるものだと思われます。
細川)
男女で大切に考える順番が違うと。
Dr.)
はい。女性にとっての最大の関心事は「妊娠」なのです。ところが、男性であるご主人にとっては「奥さんの体のことが一番心配」なのです。ですから、妊娠できる治療かどうかよりも、奥さんの身体に負担にならない治療かどうかが気になるので、治療内容について相談されても、「ほどほどに」とか、「無理しないで」というように、なんとも、奥さんからすれば中途半端に感じてしまう反応になってしまうわけです。
細川)
なるほど。そのために奥さんにとっては、自分のパートナーは治療について一緒に考えてくれない、他人事のような態度に映るのですね。
Dr.)
そうです。ですから、男女には違いがあるということを、お互いに理解しておく必要があります。その上で、コミュニケーションをとる努力をし、力を合わせることが大切だと思います。
細川)
はい。
Dr.)
そもそも、カップルは、最初、相手の違い(自分にないもの)に魅力を感じ、惹かれあうところがあったと思うのですね。ところが、ストレス状態では、「違い」が「脅威」になってしまい、お互いのいうことが批判や、攻撃に感じてしまうようになるのだと思います。
細川)
なるほど。相手との違いが、状況次第で魅力にもなり、脅威にもなるということですね。
Dr.)
はい。また、不妊治療というのは、いくら頑張って通院して、努力を続けても、結果は妊娠反応が出るかでないか、すなわち、100点か0点しかないのです。要するに、頑張りに見合った評価など全くなされない、努力に対する報酬を得られないという、それまでに経験したことのない世界なのです。
細川)
時間も、お金もかけて、治療の痛みにも耐えても、必ずしも相応の結果が得られるわけではありませんね。
Dr.)
不妊治療期間が長くなるということは、努力を否定され続けることになり、まるで、人格を否定されているような感覚になり、自尊心がはなはだしく傷つけられることになってしまうわけです。
細川)
何ヶ月どころではなく、何年にもわたって、そんな経験を繰り返している患者さんが少なくありませんね。
Dr.)
ただ、よくよく考えてみれば、妊娠することと人間の価値とは何の関係もありません。このことを忘れないで欲しいのです。

■ 脚注
(※) 不妊学級 : 東京慈恵会医科大学附属病院で、体外受精を検討する不妊患者さんに対して行っている説明会のこと。担当の医師から治療内容や注意事項などについての説明がなされる。

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