ドクターにインタビュー

vol.13

【4】物語をつむいでいく ~経験を共有する

春木 篤  先生(春木レディースクリニック院長)

春木 篤 

【4】物語をつむいでいく ~経験を共有する

細川)
エビデンス一辺倒ではそれぞれの患者さんに最も有効な治療法を選択することが難しいことがよくわかりました。
Dr.)
実際のところ、それだけではありません。対話を繰り返し、深めることで、患者さんは医者まかせではなくなるのです。
細川)
患者さんが主体になると。
Dr.)
たとえば、顕微授精は体外受精よりも受精率が高くなりますから、同じ採卵数でも顕微授精を行うほうが多くの受精卵が得られることが期待できます。その一方で、顕微授精では、少しですが、お子さんの先天異常のリスクが高くなることが報告されはじめています。
細川)
はい。
Dr.)
明らかな受精障害があって顕微授精でしか妊娠を望めない場合は別ですが、たとえば、ご主人の精子の奇形率が高く、体外受精ではダメではないけれども、顕微授精のほうがベターだろうと考えられるケースでは悩むところです。
細川)
そうですね。
Dr.)
精子に自信がないので、とにかく、少しでもたくさんの受精卵を得ることを優先して、顕微授精を選択するという患者さんもいらっしゃるでしょう。
細川)
はい。
Dr.)
その一方で、少しでもリスクを避けることを優先し、たとえ、受精率が低くなったとしても体外受精を選択する患者さんもいらっしゃるでしょう。私は、それでもいいと思っています。そして、そんな場合に、自分たちの選択を少しでもよい結果にするために、ご主人がそれまで出来なかった禁煙を決意し、サプリメントも飲んで、そして、ふたりでご主人の精子を信じて、頑張りたいというようになったらどうでしょう。
細川)
あー。患者さんと一緒に治療をつくりあげていくことで、患者さんが主役になっていくということですね。
Dr.)
まさに、患者さんが物語の主役なのです。たとえ、少ない受精卵しか得られなくても、1個でも胚移植ができれば、妊娠の可能性はあるわけです。そんな選択をされた患者さんの気持ちを尊重し、大切にさせてもらいたいと、私は思います。そんな物語を患者さんとつむいでいきたいのです。
細川)
はい。
Dr.)
自分たちが悩んで、考え、そして、自分たちで環境を整え、その結果、やってきてくれた子どもであれば、これは本当にご夫婦で作り上げた「物語」であり、この物語は出産後も、ずっと続いていくはずなのですよ。
細川)
確かにそうですね。
Dr.)
そんな人生の中でもご夫婦のドラマティックな経験を共有させてもらえるのは、私たちにとっても大きな喜びなのです。こんな幸せなことがあるのでしょうか?これが、春木レディースクリニックの目指す、「エビデンス(evidence;根拠)にはじまり、ナラティブ(narrative;対話)におわる医療」なのです。

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