ドクターにインタビュー

vol.07

酸化ストレスと男性不妊〜男性不妊のセルフケアを考える

辻 祐治 先生(恵比寿つじクリニック院長)

辻 祐治

【3】酸化ストレスから精子を守るために

細川)
これまでの先生のお話で、お子さんを望まれる男性にとって、 酸化ストレスを軽減することが大切であることがよく分かりました。 そこで、酸化ストレスから精子を守り、パートナーの妊娠の確率を高めるために、 何をどのように取り組めばいいのか、アドバイスをお願いします。
Dr.)
酸化ストレスの増大は、 活性酸素の発生量と抗酸化力のアンバランスから起こります。 そのため、酸化ストレスを軽減するために取り組むべきは、 一つは活性酸素が過度に発生しないようにすること、 そして、もう一つは、抗酸化力を高めることです。

★過度の活性酸素の発生を抑える

Dr.)
活性酸素の発生源には、身体の内部にあるものと、 外部にあるものの2つの種類があります。 身体の内部にあるものとしては、呼吸すること、 すなわち、細胞でエネルギーをつくる際に漏れるものだけでなく、 さまざまな疾患や炎症などが活性酸素発生源になり得ます。 たとえば、精索静脈瘤※や停留精巣※、精巣炎※など、 男性不妊の原因になる疾患も活性酸素の発生源になります。

※精索静脈瘤:精巣から心臓へ戻る血管(静脈)にお腹から血液が逆流して、コブ状にふくれるものです。お腹から逆流した温かい血液が精巣の温度を上昇させ、精子をつくる働きに悪影響を及ぼすと考えられています。
※停留睾丸:出生直前に陰嚢(いんのう)の中に下りてくるはずの睾丸が腹部にとどまったままになっている状態。精巣の温度上昇が精子をつくる働きに悪影響を及ぼすと考えられています。
※精巣炎:細菌やウイルスなどの感染によって、精巣に炎症が起こる病気。ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の感染によって発症することが多く、他に尿道からの細菌感染や外傷などもある。
細川)
精索静脈瘤など、男性不妊の原因になる疾患が活性酸素の発生源になるということは、 そのことによって、男性不妊の症状を悪化させるということでしょうか。
Dr.)
その可能性があります。
それぞれに、適切な治療を施すことが大切です。
細川)
わかりました。
Dr.)
一方、身体の外部の発生源のほうは、 精神的なストレスや喫煙、大量の飲酒、激しい運動、食品添加物、睡眠不足、 また、紫外線、高温環境、除草剤などの有害物質、放射線など、多岐に渡りますが、 ほとんどは、生活習慣を改善すること、生活環境、 場合によっては、職場環境を見直すことで、避けることが可能ではないでしょうか。
細川)
ストレスのマネージメントや禁煙、お酒は適量にすること、 新鮮な食材を調理した食事、適度な運動習慣、質のよい睡眠など、 生活習慣を見直し、健康的なライフスタイルを心がけるということですね。

★抗酸化力を高める

Dr.)
その一方で、体内の抗酸化力を高めることも大切です。 もともと、私たちの体内には、抗酸化作用のある酵素やホルモンが備わっています。 そして、食事から取り入れる抗酸化物質と協働し、抗酸化ネットワークを張り巡らせています。 ところが、抗酸化酵素やホルモンは、年齢とともに、 その量が徐々に少なくなってしまうことがわかっています。 そこで、抗酸化物質をしっかりと摂取することがポイントになります。 主に野菜や果物に豊富に含まれていますので、バランスのよい食生活を心がけることです。
細川)
野菜や果物をしっかり食べるということですね。
Dr.)
また、30代、40代の男性の生活スタイルを考えると、 効率的に抗酸化物質を補充するために、サプリメントを利用するのもいいでしょう。
細川)
抗酸化サプリメントですね。
Dr.)
最新のシステマティックレビュー※では、 体外受精や顕微授精を受けている不妊カップルの男性が抗酸化サプリメントを摂取することで、 妊娠率や出産率が有意に上昇することが確かめられています。 原因不明の乏精子症や精子無力症に対しては、特効薬が存在しませんので、 抗酸化サプリメントで酸化ストレスを低減させ、 改善を目指す価値があると言えるでしょう。 また、パートナーの女性が、高度生殖補助医療に臨まれる男性にとっても、 同様のことが言えると思います。
※Antioxidants for male subfertility. Cochrane Database Syst Rev 2011;1:CD007411.
細川
よく分かりました。
本日はありがとうございました。

ドクターに訊く

ドクターにインタビュー