ドクターにインタビュー

vol.04

【2】どんな基準や目安で病院を選べばいいのか、選ぶべきなのか

浅田義正 先生(浅田レディース名古屋駅前クリニック院長)

浅田義正

【2】どんな基準や目安で病院を選べばいいのか、選ぶべきなのか

細川)
それでは、具体的な病院選びの基準や目安について、お聞きしたいと思います。

★それぞれの患者に最適な方法で卵巣刺激を行っているか
― 質の良い卵子を得るために

Dr.)
まずは、「それぞれの患者さんに最適な方法で卵巣刺激を行っている」かどうかということです。 体外受精や顕微授精で妊娠、出産できるかどうかは、 質の良い卵子を得ることが出来るかどうかにかかっています。 そのために医療に出来ることは、 それぞれの患者さんに最適な方法で卵巣刺激(※)を行い、複数の卵子を採卵することです。

※卵巣刺激
体外受精では採卵した卵子がすべて胚移植できる段階にまで成育するとは限りません。 採卵した卵子には妊娠できるだけの生命力が備わったものもあれば、そうでないものもあるからです。 そのため、複数の卵子を育て、採卵したほうが、生命力のある卵子が得られる確率が高くなり、妊娠に有利になるとの考え方のもとに排卵誘発剤を使うことを卵巣刺激といいます。 卵巣刺激の方法には使用する排卵誘発剤の種類や使い方によっていくつかの方法があります。

細川)
複数の卵子を育て、採卵することで、 妊娠できるだけの力を備えた卵子と出会える確率を高めるということですね。
Dr.)
そうです。
細川)
会員の皆さんから「どの刺激法がベストなのか」とか、 「やはり、自然に近い方法がよいのか」とのご相談が本当に多く寄せられています。
Dr.)
卵巣を刺激する方法の優劣や自然に近いかどうかを論じてもさほど意味がありません。 なぜなら、最も重要なことは質のよい卵子に出会える可能性の最も高い方法を採用することであり、 そのためには、患者さんの状態に最適な方法を選択すべきであるからです。
細川)
決して、"方法論ありき"ではないということですね。
Dr.)
そういうことです。もしも、方法論を優先することで、 妊娠の可能性を小さくしてしまうようなことがあると、本末転倒です。
細川)
とてもよく分かりました。 ここのところは、大切なことであるにもかかわらず、 誤解されていることが多いように思います。
Dr.)
そうですね。最適な方法を採用するうえで、 最良の指標となるアンチミューラリアンホルモン(以下、AMH)のこともお話ししておきましょう。
細川)
はい。
Dr.)
それぞれの患者さんに最適な卵巣刺激法を知るには、 それぞれの患者さんの卵巣予備能、すなわち、 卵巣にどれくらい卵子が残っているのかを把握する必要があります。 また、それ以前に、卵巣にどれだけ卵子が残っているのか、 すなわち、卵巣年齢を知ることは、治療方針を立てる上でもとても重要になってきます。
細川)
卵巣年齢を知ることは、治療方針を立てるうえでも重要だと。
Dr.)
そうです。もしも、実際の年齢の割に卵巣年齢が高ければ、 治療のステップアップを早めるのが得策です。 反対に卵巣年齢が若ければ、それほど慌てる必要はないと言えます。
細川)
患者さんの意志決定のためにも大切な指標になるのですね。
Dr.)
はい。そのため、当院では、不妊治療の開始に際して、 必ず、AMHを測定し、卵巣予備能を調べたうえで、 それぞれの患者さんに最適な治療法や卵巣刺激法を選択しています。 そもそも、AMHは、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンです。 そのため、このホルモンの値は未成熟な卵胞から発育する卵胞の数を反映すると考えられています。 つまり、卵巣内の未成熟な卵胞が少なくなってくると、AMHの値も低くなるというわけです。
細川)
AMHが卵巣にどれだけ卵子が残っているのかを知る目安になるゆえんですね。
Dr.)
はい。従来、卵巣予備能検査は、生理3日目のFSHの基礎値を測定し、目安にするのが一般的でしたが、 その時々で変動が大きいというデメリットがありました。 ところがAMHは月経周期にかかわらず、あまり変動しないため最もよい指標になるのです。
細川)
よく分かりました。年齢が高くなるほどAMHを測定し、 卵巣年齢を知ることが大切になってくるということですね。

★ラボワーク(培養技術) ― 受精卵の健全な生育のために

Dr.)
また、体外受精の成功は、 採卵した卵子を受精、或いは、顕微授精させ、受精卵を培養(人工的な環境下で育てること)する、 ラボワーク(培養技術)にも左右されます。 健康な母体内で健全な生命が育まれるわけですから、 体外受精においては、ラボラトリー(培養室)の実力、すなわち、 設備やエンブリオロジスト(胚培養士)の技術のレベルの高さが求められるというわけです。
細川)
よく分かります。
Dr.)
私は、「培養室の質の向上は、妊娠率の向上につながる」との信念を持っていますが、 高い水準のラボワークにこだわり、 どれだけ人材や設備を整えているのかも見ておきたいところですね。
細川)
培養環境の向上にどれだけ取り組んでいるのかということですね。
Dr.)
一方、培養室のハード面は、お金をかけることである程度は整えることが出来ますが、 そのハードを運用して成果を出す力、すなわち、 ソフト面については、やはり経験がものを言います。
細川)
そうですね。 どれくらいの症例数を目安にすればいいのでしょうか?
Dr.)
あくまでも目安ですが、年間300回以上の採卵を実施しているというところでしょうか。

★説明 ― 納得の行く治療を受けるために

細川)
生殖補助医療におけるドクターの考え方や力量、そして、培養室の実力というところですね。 その他についてはどうでしょうか?
Dr.)
治療に入る前、そして、治療のプロセスにおいて、 きちんとした説明がなされているということでしょうか。
細川)
会員の皆さんから寄せられる質問や相談の内容をみていると、 多くはスタッフの方が忙しそうにしていて聞きづらいとか、 説明がよく分からないからという理由で尋ねてこられる場合が多いですね。
Dr.)
治療実績や治療成績を開示しているかどうも大切なところですね。 治療成績については、単なる妊娠率という数値だけでは その病院の実力をはかれません。 年齢の高い患者さんが多い病院ほど、治療成績は悪くなるからです。 ですから、年齢別の妊娠率や出産率を確認しておきたいものです。 また、高齢の患者さんにとっては、移植あたりの妊娠率よりも、 採卵あたりの妊娠率を参考にすべきだと思います。
細川)
適切な卵巣刺激を施して、 確実に採卵が行われているかどうかの目安になるということですね。

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