編集長コラム

細川 忠宏

治療のステップダウンについて考える

2018年09月17日

不妊治療には「ステップアップ」という方法があります。検査の 結果、不妊の原因がみつからなかった場合、出来るだけ負担 の少ない治療から始め、それで妊娠に至らなければ、負担が 大きくなるけれどもより治療効果の高い治療に移行し、妊娠を 目指すという方法です。

不妊治療では、原因に対する治療だけでなく、検査では見つ けることができなかった不妊の原因がどこに潜んでいるかわからないため、そこのプロセスをバイパスする治療があります が、その際、出来るだけ負担の少ない治療、すなわち、必要最小限の治療で妊娠を目指そうという考えを基にした方法が 「ステップアップ方式」です。

そして、現在のところ顕微授精がステップアップの終着です。

40歳の女性の移植あたり妊娠率を考えると、5~6回の胚移 植で累積妊娠率が頭打ちになってきます。もちろん、その後も 妊娠の確率はゼロにはなりませんが、「検査では見つけることができなかった不妊原因」はそこにはなかった可能性が高いということになります。つまり、精子と卵子は自然に出会えてい る可能性が高いのではないかと考えられるわけです。

であれば、今度はステップダウンで妊娠を目指すという選択肢が視野に入ってきます。

ステップアップの反対、ステップダウンについては、それほど情 報が行きわたっているように思えません。大げさに聞こえるか もしれませんが、ステップアップがあれば、ステップダウンがなければ片手落ちと言わざるを得ません。

ステップアップの先には、必ず、妊娠・出産が待っているわけではありません。

そのため、ステップアップだけで、ステップダウンがなければ、 「梯子を外した」状態をつくり出してしまいかねないからです。

そこで、ステップダウン、すなわち、体外受精や顕微授精からより治療効果は低いものの負担の少ない治療に移行することを考えてみます。

ステップダウンとは、これまで卵子と精子が自然には出会えていないことを疑い、ステップアップしてみたものの、どうやら出会えているのかもしれない、であれば、負担の軽い治療に切り替え、妊娠を目指そうというものです。

そのため、ステップダウンの大前提として、卵管や男性側、そし て、受精に大きな問題がないことがあります。

さて、ここで想定される原因とは卵子の老化です。そして、ステップダウンでは、妊娠に至るだけの力のある卵子と出会うチャ ンスを増やすことを目的とします。

卵子の老化が主な不妊原因である場合、妊娠に至らないのは「妊娠するだけの力のある卵子」に出会えていないことで、 妊娠できるかどうかは「治療方法」もさることながら、主に、「妊娠できる卵子」に出会えるかどうかにかかってくるからです。

ところが、「妊娠できる卵子」が排卵、もしくは、採卵できるかどうかは、コントロールできません。要するに、いつ出会えるかはわからない、全くの「運」です。であれば、「運」を呼び寄せるのは、「数」、すなわち、毎周期、チャレンジすることです。

年齢のわりにはAMHが高く、卵巣刺激で複数の成熟卵が採卵できていればまだしも、そうでなければステップダウンが現実的な選択肢になり得ます。

体外受精や顕微授精を受けない周期に人工授精を受ける、 もしくは、最低でも適切なタイミングに、複数回、性交します。

あるいは、43歳以上になれば、複数の卵子を採卵できなけれ ば、ARTとAIHの成績が拮抗してくることから、AIHに完全にステップダウンするという選択肢も現実的になってきます。

ステップアップは、「必要最低限の治療で妊娠を目指す」が基本方針です。ステップダウンでは、さらに「納得感」が加わります。後悔のないように「やりきる」のは、決して、高度な治療を限界まで 繰り返すことでも、お金を遣い切ることでもなありません。

二人の「納得感」を大切にし、妊活のソフトランディングを 考えることが大切なように思います。