編集長コラム

細川 忠宏

ふたりの生活はふたりがつくる

2015年04月06日

春に断トツで妊娠していた時代があった

「春」は、新しい生命の息吹きを感じることが出来る季節で、植物にとっても、動物にとっても、自然界に新しい生命を育む力が溢れる時です。

私たち人間も生き物なので、やっぱり、春は妊娠しやすくなるのかなと思い、厚労省の統計サイトにある月別出生数をチェックしてみました。

すると、統計がはじまった明治32年から戦前、そして、昭和40年頃まで、出生数は月の差が大きく、1~3月が飛び抜けて多いものの、4月には大きく落ち込み、6月に最低になり、その後は徐々に増えていくという傾向が続いています。

予想通りというか、やっぱり、人間も、妊娠は4~6月の「春」が断トツで多く、7~9月の「夏」が極端に少なくなっていました。

厳しい冬が終わって春の陽気がやってくると、「むくむく」と性生活が盛り上がり、ただでさえ寝苦しい真夏の夜には性交回数も減ってしまうことは容易に想像できます。

実際、精子をつくる働きは「暑さ」に弱く、男性の精液中の精子数は、冬から春にかけて多くなり、夏には少なくなることが知られています。

ですから、春の妊娠が最も多くなり、夏に最も少なくなるのはよくわかります。

ところがです、昭和45年以降、最新の統計まで、月別出生数の差はほとんどなくなり、ほぼ、フラットになっていきます。

つまり、昭和40~45年頃を境に、妊娠するのに季節の影響を受けなくなってしまうのです。

この、あまりにもはっきりとした変化に驚いてしまいました。

選択肢の急増と引き換えに

昭和40年代の頃から、「春の陽気」に誘われたり、「夏の蒸し暑さ」に萎えたりすることが、それまでに比べて、少なくなったということでしょうか。

多分、そういうことなのでしょう、あくまで私見ですが。

自然環境が変わったわけでもなく、人間の体の仕組みが変わったわけでもありませんからね。

ちょうど、この頃から日本は経済的に豊かになり、自家用車やエアコンをはじめとした文明の利器が普及しだして、生活が便利で、快適になります。

また、ハウス栽培などで、年中、口に出来る食材も増えていきました。

その結果、自然環境による制約がそれほどでもなくなったということがあるのかもしれません。

そして、自然の制約が少なくなるにしたがって、あらゆる日常生活の場面で選択肢がどんどん増えていきます。

それまでは、そうせざるを得なかった、そうするしかなかったのに、こうすることができるようになり、ああすることもできるようになるというふうに。

そして、生活環境面では、自然の制約から解放され、快適に過ごせるようになった一方で、生殖環境面では、自然がつくりだす「妊娠どき」を察知しづらくなっていったわけです。

ここでいうところの「妊娠どき」とは、大自然のサイクルからのエネルギーが満ち、妊娠する力や育む力が高められ、その結果、妊娠、出産数が増えることになる時期、そんなイメージです。

ふたりの「妊娠どき」をふたりで決める

自然の制約に従わざるを得なかった昔は、ある意味、なにも考えずに、流れにまかせておけばよかったのかもしれません。というか、選択肢さえ存在しなかったわけですから、そうせざるを得なかったわけですが。

ところが、そんな制約が少なくなった現代では、もちろん、もっと自然にふれあい、野生に戻り、妊娠のためのエネルギーを得ることも含めて、それも含めて、「妊娠どき」をふたりできめることが、ますます、大切になっているように思えてなりません。

ふたりで、ふたりにふさわしい、妊娠、出産、子育てのための環境をつくるということです。

選択肢がいっぱいある中で、なにも考えず、より便利さ、より快適さだけを求めて、流れにまかせていると、「なんでこうなった?」なんていうふうになってしまいかねないと思うのです。

自分たちは「どうしたいのか」を大切にし、ふたりの生活をふたりでつくっていく、そんなイメージです。