編集長コラム

細川 忠宏

ボタンを掛け違わないために

2012年04月01日

不妊治療は出口の見えないトンネルにたとえられますが、そんな中で"不妊症の検査"には羅針盤のような役割があります。

検査の結果をもとに、どの方向に、どんなペースで進むのか、すなわち、どんな治療を、どれくらい繰り返すのか、これからの治療方針を決めるからです。

でも、その羅針盤の針がいつも北を指さなかったらどうでしょう?方位磁石の精度だけじゃなく、方位そのものがその時々で変わってしまったらどうでしょうか?

行きたいところ、行くべきところに行けなくなってしまい、さまよってしまうことになりかねません。

実は、同じようなことが不妊症の検査でも起こり得るのです。

千葉県の高橋ウイメンズクリニック院長の高橋敬一先生は、「ドクターに訊く」のインタビューで、『不妊症の検査の結果は100%正しいとは限らない』、なぜなら、『まずは、人間の体の状態はいつも一定ではないので、検査結果がつねにその人のいつもの状態を反映しているとは限らない、また、検査にはある程度誤差があり、検査結果は絶対的なものではありません』と指摘されています。

そして、『排卵の時期、ホルモン検査、精液検査、フーナーテスト、子宮卵管造影検査などの結果もばらつくことが普通にある』とおっしゃいます。

もしも、1回の検査検査を何の疑問もなく信じてしまったら、あわてて不必要な治療を受けてしまったり、反対に、必要な治療機会を逸してしまったり、そして、何よりも、大きな精神的なダメージを受けてしまいかねません。

まさに、ボタンの掛け違いが起こってしまうわけです。

私たちのところにお寄せいただくご相談や妊娠報告の内容をみていても、そんなケースが決して少なくありません。

男性の精液検査で精子濃度が1ミリリットルあたり500万個を下まわり、乏精子症と診断されたのに、再検査では1億個を超えるなんてことは、本当によくあることですし、フーナーテストも検査の度に違う結果が出ることも珍しいことではありません。

高橋先生は、性感染症のクラミジアの検査でも、感染しているのに陰性だったり、その反対に感染していないのに陽性が出たりすることも"普通に"あるとおっしゃいます。

性感染症の検査となると、デリケートな夫婦関係にも影響する可能性があります。

また、子宮卵管造影検査で1回の検査結果で閉塞と診断されても、その後の再検査で約50%は通っていること、さらには、同じ子宮卵管造影検査で異常がないと診断されたのに不妊期間が長くなった女性に腹腔鏡検査で調べてみると、30~40%に卵管周囲の癒着や軽度の子宮内膜症がみつかるとも言われています。

くれぐれも誤解しないで欲しいのは、だから不妊症の検査なんていい加減だとか、受ける意味がないということを言っているのではありません。

不妊症の基本検査は治療方針を決定するうえでとても大切で、早い段階で受けるべきではありますが、検査結果にはバラツキがあったり、検査によっては精度の限界があったりするので、1回の結果で早急な結論を出してしまうのは賢明ではないということを知っておいて欲しいのです。

必要に応じて再検査や再々検査を受けてみることが大切です。

二人が後々後悔しないよう、納得の行く不妊治療を受けるためにも、ボタンの掛け違いは避けたいものです。

そのためには、不妊症の検査について正しく理解しておくことが大切ですね。