編集長コラム

細川 忠宏

体内・体外環境を整えるということ

2010年03月15日

体外受精にステップアップすることを考えているのだけれど、主人がどうしても首をたてに振らない・・・、数日前、Oさんという方と、ご主人との治療に対しての考え方のギャップについての話しになりました。

どんな治療を受けるのか、すなわち、どのように赤ちゃんを待つのかについては、正解などなく、それぞれの夫婦が、自分たちの考え方をすり合わせ、さらには、互いの価値観に照らして、自分たちなりに、納得のいく答えを導くしかないのですが、お二人が話し合ううえで、参考にしてもらえそうなお話しをしながら、改めて、つくづく、感じたことがあります。

それは、"環境"というものの大切さです。

妊娠に至るプロセスや方法の違いよりも、さまざまな環境が及ぼす影響のほうが、その何倍も大きいのではないかということです。

さまざまな環境とは、たとえば、卵子や精子が成熟する卵胞液や精液中の環境であり、そして、受精卵が移動し、着床する、卵管や子宮内の環境であり、また、胎児が生育する胎内環境であり、さらには、出生後の授乳環境や養育環境などのことです。

世界で初めての体外受精ベイビーが生まれてから32年、体外で卵子と精子を受精させ、何日間か培養してから、子宮内に戻すという、人類が誕生してこのかた、それまではあり得なかった方法による妊娠とあって、体外受精が及ぼす子どもへのさまざまな影響について、不妊治療に携わる人たちは、とても、とても、心配し、そして、数多くの追跡調査や比較試験が実施されました。

現在までのところ、体外受精児の出生時から成人に至るまで、心身の健康状態は、概ね、良好で、自然妊娠で生まれた子どもと比べて、変わらないとのこと。

当初、懸念された心配は、次第に、杞憂になりつつあります。

つまり、体外受精を施したことで、生まれた子どもに決定的な影響を及ぼす事実は見当たらないわけです。

それに対して、母親になる女性や父親になる男性の栄養状態や生活習慣は、やがて生れくる子どもの心身の健康状態を、大きく、左右することが多くの研究で明らかになっています。

たとえば、卵子や精子、受精卵、胚は、周囲の環境中の酸素や栄養成分をやりとりすることで生育します。

卵胞液や精液中の状態は卵子や精子の質、そして、その後の受精率や胚のグレードまでも左右したり、子宮内膜の状態は妊娠の成立や継続に大きく影響を及ぼすことも、また、明らかです。

そして、胎内の栄養環境は、胎児や赤ちゃんの間でだけでなく、大人になってからの体質をも左右するのです。

さらには、生まれてからも同様です。

「三つ子の魂百まで」とか、「類は友を呼ぶ」などのことわざが意味する通りです。

子どもはその環境を自分で選べません。

その環境をつくり、整えられるのは、母親になる女性であり、父親になる男性なのです。

誤解しないでいただきたいのは、体外受精を勧めているわけではありません。

ただただ、"どんな方法で授かるか"ということよりも、母親になる女性や父親になる男性の"体内環境"、そして、出生後の"養育環境"のほうが、お子さんやお子さんの将来の心身の健康状態に与える影響が大きい、この事実を知ってほしいだけです。

妊娠するかどうかは、私たちの努力に関わらず、遅かれ、早かれという側面があります。

ところが、自分たち、そして、やがて生れくるであろうわが子の健康や生活の質は、自分たちの考え方や努力が大きく左右するわけです。

女性にとっても、そして、男性にとっても、自分を大切にすること、イコール、家族を大切にするということ。

妊娠しやすいカラダづくりは、早く、妊娠するためだけの考え方や方法論では、決して、ありません。

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