編集長コラム

細川 忠宏

お子さんを望まれる男性の皆さんへ

2009年07月12日

卵子と精子が出会い、受精卵から胚に、そして、胎児へと成長するのは、すべて女性のお腹の中で進むものです。

現実に、妊娠、出産に際しての生理的、肉体的役割は、女性が担っていることから、妊娠しない、妊娠しづらいとなった場合にも、女性が主役であるかのように錯覚してしまいがちです。

ところが、少しでも立ち入って考えてみると、女性だけの問題ではなく、二人の問題であることがよくわかります。

まず、不妊の原因から言えば、いまや男女ほぼ半々で、特に、この10年で、男性不妊が増加傾向にあるという見解が一般的になりつつあります。

そして、不妊の原因が男女いずれにあるのかにかかわりなく、受精卵が健全に発育するためには、卵子の質だけでなく、精子の質も一定の役割を担っていることが、最近の研究で、次第に明らかになってきています。

DNA構造の分析技術の進歩は、犯罪捜査の質を高めただけではありません。

たとえば、精子は、胚の成長において、これまで考えられていた以上に重要な役割を担っていると、アメリカの大学の研究が「ネイチャー」誌に掲載されています。

精子の主な役割と言えば、父親の遺伝情報を母親の卵子に運ぶことで、とにかく、卵子に一番乗りして、その頭部に格納した遺伝情報を卵子に送り込み、受精が完了すれば、"ご苦労さま!お役御免"と、だいたい、そんなイメージでした。

ところが、受精卵が正常に分割、成長するかどうかは、精子が運んできた遺伝情報の構造にも左右されると言うのです。

また、精液検査で精子の数や運動率はクリアしていても、活性酸素の攻撃による精子のDNAの損傷度合いが大きくなると、受精率や妊娠率が低下してしまうおそれがあるとの報告もあります。

このように、妊娠の成立、継続には、決して、卵子の質だけでなく、精子の質も深く関わっているのです。

妊娠しやすいカラダづくりは、男性にも有効な考え方なのです。

次に、不妊治療は、必ず妊娠できるという保障のないままに、2年、3年、そして、数年間と、長引いてしまうことが珍しくありません。

そして、不妊の悩みを克服する方法は、決して、一つではなく、正解はありません。

不妊は命にかかわる病気ではないからです。

どうするか、どうすべきかについて、それぞれの人の価値観や人生観が大きく反映されるものです。

ですから、"医者まかせ"でも、"あなたまかせ"でもなく、"二人が納得できる答え"をみつけないと、後々、後悔してしまいかねません。

つまり、答えは、外にあるのではなく、二人の関係性にあるというわけです。

二人で、話し合って、考えることこそがベースなのです。

最後に、不妊の原因がどちらにあっても、不妊治療は、宿命的に、女性の身体に施されるという面があります。

その上、高度生殖補助医療と言えども、その成功率は、決して、高くなく、肉体的、精神的、経済的負担に見合わないとの印象を、もたれるかもしれません。

自らの身体に施される女性にとっては、成功率の低さを治療を続けることで克服しようと頑張らざるを得ず、また、妊娠しない原因や責任を自らに帰してしまうことも、往々にしてあります。

そのうえ、不妊の悩みはとてもデリケートで、だれかれなしに気軽に話し合ったり、相談できるものではありません。

強いストレスを感じたり、無力感に苛まれることも、悲しいかな、宿命的とも言えるわけです。

そんな中で本当に頼りになるのはパートナーです。

不妊治療を受けている夫婦を対象にした調査で、関係が良好である夫婦ほど、治療で受けるストレスが少ないとの報告もあります。

精神的にもお互いの役割は小さくありません。

いかがでしょうか?

ただでさえ、プレッシャーのかかっている男性陣に、さらなるプレッシャーをかけようと思っているわけではありません。

多くのご夫婦からの悩みに接していて、誤解や単に知らなかったことからくるプレッシャーも、少なからずあるように思えてならず、少しでも、不要なプレッシャーがなくなればということです。

考えてみれば、夫婦がよく話し合って、お互いの価値観や人生観をすりあわせることは、不妊の悩みを解決するだけでなく、二人が充実した人生を歩むためにもとても大切なことと思います。

辛いこと、悲しいことを、二人で転じて福となしていただきたいと、願ってやみません。

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